『ヨーロッパ選手全体が、驚くほど技量を上げているのである。
本家である日本のカラテは依然として殴り合いの域を脱していない。
相手が一つ殴れば、こちらも一つ殴り返す。
2つ殴れば、2つ殴り返すという具合だ。
そのようなガッツを持った戦い方は、私も認めている。
しかしそれだけでは、カラテは単なる殴り合いだということになる。
カラテは華麗でなければいけない。
縦横無尽に動いて、華麗なる一撃で相手を倒してこそカラテだ。
しかし現在の多くの試合は、ただ正面からぶつかり合うことに固執する感じが強い。
そこにはカラテたる本来の技法は影がうすくなっている。
みなさんも、よく心に銘記してもらいたい。
現在カラテの技法の影がうすくなりつつあることを。
そして、そのカラテの技法があるとするならば、ヨーロッパにあるのではないか。
〜中略〜
では、そのヨーロッパ選手たちは、どういった戦い方をするか。
まず、ヨーロッパ選手の組手は、防御が攻撃といえる。
つまり防御がうまいのである。
たとえば、相手の突き蹴りが10本くるとするならば、そのうち3本もらっても、7本は流す。
逆に自分の攻撃は、10本のうち7本を確実に入れる。
ヨーロッパ選手たちは、こうした計算の上で戦っている。
防御が戦いの大きな武器となっている。
そして、このような戦い方をするためには、相手の左右に廻ることが大事です。
つまり、足さばきだ。
戦いのなかでは、相手と自分との位置関係によって、常に互いの力のバランスが違ってくる。
だからこそ、自分の体を相手よりも有利な位置に運ぶことが、極めて重要な戦法となるのである。
たとえば、正面から向かいあったときの力のバランスというのは、50対50、互いに平等である。
これが、相手の斜めに廻り込むことによって、70対30という有利さになる。
さらに、相手の横に廻ってしまえば、力のバランスは80対20と圧倒的に有利な状態となって戦える。
相手の後ろを取ってしまえば、90対10の力関係といえるだろう。
これだけ、組手における足さばきは大事である。
ただ、実際の試合で相手の左右に廻ることはなかなか難しい。
間合の計り方などに、鍛錬が必要だからだ。
しかし、ヨーロッパの選手たちは、実に見事な足さばきを使う。
私が感心してしまうほどに、よく動く。
この足さばきは、カラテの技法の重要なる部分として、これから日本でも充分に鍛錬し、取り組んでいかなければいけないものである。』
(1989年7月29日 極真会館本部夏季合宿講話より) |